問いを立てる力の鍛え方 〜AIにはできない人間の思考スキル〜

AIの発達により、私たちは驚くほど短時間で答えにたどり着けるようになりました。チャット型のAIに質問すれば、瞬時に情報を整理し、要点をまとめ、概要まで作成してくれます。これまで人間が数時間かけていた仕事を、ものの数秒で片付けてしまう時代です。

しかし、ここで見落としてはならない前提があります。
AIは「質問されれば答えるが、何を質問するべきかは決めてくれない」ということです。

つまり、AIの優れた能力は「問い」を前提に発動しているのです。何もないゼロの状態では、AIは動こうともしません。あくまで「問い」が与えられることで、はじめてAIはその力を発揮します。

 

問いは常に人間から始まる

そもそもビジネスの世界は「問い」に満ちています。会社の仕事も基本は課題解決の連続です。商品販売もまた、ユーザーの困りごとを解決するための提案です。「お客様は今、何に困っているのか?」という問いを立てることが、そもそも商売の出発点になっています。

研修や学習の現場でも同じです。講師が「質問はありませんか?」と尋ねた時に、質問を出せる人は、単に理解している人ではなく、自分の中で課題を見つけようとしている人です。
日々の仕事の中でも「なぜここに毎回時間がかかるのだろう?」「なぜ同じミスが繰り返されるのか?」と考えられる人は、自然と成長していきます。

 

問いを立てない人が最も危うい

一方で、問いを避けようとする人たちもいます。
「めんどくさいことは言わないほうがいい」「波風を立てたくない」「余計なことを考えたくない」── こうして疑問を封じ込め、現状維持を選ぶ思考です。

もちろん、日々の仕事で穏便に過ごす工夫としては一理あります。しかしこの姿勢こそが、AI時代には最も危うくなるのです。

なぜなら、現状維持しかできない仕事ほど、AIに代替されやすいからです。
言われたことをそのままこなす、決められた作業だけを繰り返す、そうした仕事はAIが得意とする領域です。疑問を持たず、自ら問いを立てない人ほど「AIに使われる人」になってしまいます。

 

なぜ問いを立てる力が重要なのか

AIは、既に蓄積された情報を整理し、選択肢を提示することは非常に得意です。しかし「そもそも何が問題か?」という問題設定そのものを生み出すのは、まだ人間の役割です。

つまり、思考する力の出発点は常に「問い」にあるのです。

 

問いを立てる力の鍛え方 〜5つの練習法〜

では、問いを立てる力はどうすれば鍛えられるのでしょうか。実は特別な訓練は必要ありません。日常の中で静かに練習できます。

方法説明
① なぜ?を繰り返す表面的な答えの奥に踏み込む癖をつける
② 前提を疑うそもそも前提は正しいのか?と考える
③ 立場を変える他の人なら何を問題視するだろう?と想像する
④ 長期視点で問う5年後・10年後でも意味がある問いか考える
⑤ 自分の興味と悩みから出す身近な疑問を問いに育てる

これらは日々の仕事や生活の中で少し意識するだけで実践できます。難しく考えず、「あれ?」「なんで?」と自分に問い返す習慣を持つことが重要です。

 

まとめ 〜問いは資産になる〜

AI時代は、単に答えを探す力ではなく、「問いを立てる力」こそが生存戦略になります。
どんな小さな疑問でも、自分で問う練習を積み重ねていくことが大切です。

問いは資産です。考え続ける人が、AI時代でも静かに生き残っていきます。

 

執筆:鹿内節子|AI時代の知的資産を静かに積み上げる富士山型ブログを運営中

AIに使われる人と使いこなす人の違いとは何か? 〜AI時代の生き残り方〜

AIに仕事を奪われる人と、AIを使いこなす人の違いとは?AIができること・できないことを整理し、これからの仕事の在り方を考えます。

AIの登場によって、仕事の在り方は大きく変わり始めています。すでに多くの職業が「将来AIに取って代わられるかもしれない職業リスト」として紹介され、職を持つ多くの人が不安を感じています。リストラの対象になるのではないか──そんな未来予測に、戦々恐々とする人も少なくありません。

では、AIに「使われる人」とはどのような人なのでしょうか?
この違いを理解するには、まずAIの得意なこと・苦手なことを整理する必要があります。

AIが得意とする領域

AIの強みは「すでに分かっていることの処理」にあります。以下は代表的なAIの得意分野です。

  • 計算・統計処理:膨大なデータを瞬時に分析する
  • データ整理・要約:情報を抽出・要約し、整理する
  • 文章生成:定型文やテンプレート文章の作成
  • 翻訳:多言語間の翻訳(高精度化が進んでいる)
  • パターン認識:画像・音声・顔認識など
  • ルールベース作業:決まったルール通りに判断・分類する
  • 反復作業:同じ作業を大量・高速に繰り返す
  • アシスタント機能:スケジュール管理、メール下書き作成
  • アイデア提案:既存情報の組み合わせから発想支援する

これらは、人間に代わってスピーディに処理できる典型的なAIの仕事です。

AIが苦手とする領域(人間の役割)

一方で、AIにはまだ難しい「人間固有の役割」が存在します。そこが「AIに使われる人」と「AIを使いこなす人」を分ける境界線とも言えます。

  • 問いを立てる:何が本当の問題かを発見する力
  • 判断と決断:価値観・倫理観に基づく意思決定
  • 文脈の深読み:相手の状況・空気を読む力
  • 感情理解:細やかな感情やニュアンスの把握
  • 創造的発想:ゼロから新しい概念を生み出す
  • 長期的な文脈理解:背景や将来を見据えた意思決定
  • 信頼構築:人間関係の信用を積み上げる力
  • 暗黙知の共有:経験からくる微妙なさじ加減
  • 責任の引き受け:意思決定に伴う責任を持つ
  • 戦略設計:優先順位を決め、全体像を描く
  • 届け先の選択:「誰に何を届けるべきか」を判断する

これらはAIが代行しにくい、「考える力」「責任を取る力」「相手に合わせる力」 です。

AI×人間の役割分担マトリクス

領域AIの得意分野人間の役割
情報処理データ整理・要約・計算重要情報の選択
作業遂行定型作業の高速処理作業設計・優先順位付け
文章生成テンプレ型文章生成読者に合わせた表現調整
意思決定選択肢の提示最終決断・価値判断
問題発見パターン抽出本質課題の発見
コミュニケーション事実ベースの応答空気を読む・信頼形成
創造力アイデアの組み合わせ生成ゼロからの新発想
倫理判断ルール判定状況に応じた倫理配慮
戦略設計過去データの予測長期視点の戦略立案

AIに「使われる人」と「使いこなす人」の違い

結論を言えば、「AIが得意な領域の仕事だけを続けている人」 は、代替リスクが高まります。定型処理・ルール遵守・繰り返し作業──こうした仕事はAIが得意とするからです。現状維持に甘んじ、成長や変化を避け続ける人は、知らず知らずのうちにAIに仕事を明け渡していく可能性があるのです。

一方で、「AIを使いこなす人」 とは、自ら問いを立て、判断し、他者の文脈を読み取り、責任を持って意思決定できる人です。AIが補助してくれる部分は上手に任せつつ、自分が担うべき役割を明確にしていく。こうした人は、AI時代にこそ価値を発揮できる存在になります。

まとめ

今後AIの普及が進むほど、「何が問題か?」を考える力がますます重要になります。繰り返すだけの作業はAIが得意です。しかし問いを立て、本質を探り、責任を持って決断し、他者と信頼関係を築くのは、これからも人間の役割であり続けるでしょう。
AIに使われるのではなく、AIを使いこなせるか――そこが分かれ道です。

執筆:鹿内節子|AI時代の知的資産を静かに積み上げる富士山型ブログを運営中